研究内容

 生物は30億年以上前の遥か昔に誕生したと考えられています。そのはじめの生物は目に見えないくらい小さい一つの細胞体、つまり微生物であったことは疑いようがありません。微生物はその長い歴史の中で、様々な形態や機能を進化の過程で獲得してきました。人間には決してまねできないことを微生物はいとも簡単にやってのけます。
 微生物は地球上の至る所に生息しています。その微生物の活動は、過去から現在に至るまで、地球のエネルギー・物質循環に大きな影響を与えてきました。今後も、地球が生命に満ちあふれた惑星であるために、微生物は地球にとって欠かすことのできない存在であり続けるでしょう。しかしながら、地球上に存在する微生物の99%以上はまだ実験室で培養されていないともいわれるように、実は私たちは地球の微生物について、ほとんど知らないのです。
 そんな地球上の微生物のことをもっとよく知りたい、というのが私の研究の動機です。

もう少し具体的には、

  1. 微生物(特に、鉄を食べる微生物)が地球全体のエネルギー・物質循環に与える影響は、どのくらい大きいものなのか?
  2. 地球上の人間を含むすべての生物の祖先に最も近縁な微生物は、どのような特徴をもっているのか?(好熱菌なのか?)
  3. 海底の微生物群集の組成はどのようにして決定付けられるのか?(どこに、どのような微生物が、どうして存在するのか?)
ということに関して興味をもって、現在研究を行っています。


鉄酸化菌の生理生態学

fe-rich mat Fe oxidizing bacteria
左:公園内の鉄マット。 右:培養した鉄酸化菌がつくったひも状の構造物(右下のバーは10マイクロメートル)。

 人が米や肉を食べてエネルギーを得て生きているのと同じように、鉄を食べて生きている微生物がいます。この微生物は、鉄を酸化することで生育に必要なエネルギーを得ています。故に、「鉄酸化菌」(もしくは「鉄酸化細菌」、「鉄細菌」、「鉄酸化バクテリア」、「鉄バクテリア」)と呼ばれています。鉄酸化菌によって酸化された鉄は、不溶性酸化鉄(つまり錆)となって沈殿します。山中の湧水池などで赤茶けた錆が見られる場所には、鉄酸化菌が生息していることが知られています。しかしながら、こんなに身近な存在である鉄酸化菌ですが、実は実験室内で培養することが極めて難しい微生物であり、その生理生態はほとんどわかっていません。

fe-rich mat Fe-rich microbial mat on board
左:海底熱水域の鉄マット。 右:サンプリングした鉄マット。

 近年、このような鉄酸化菌に支えられた微生物生態系が広大な海洋底に存在するのではないか、という仮説が提唱されました。実際に、海底の試料から鉄酸化菌の存在を示す証拠がいくつか得られています。もしかしたら、地球規模でのエネルギー・炭素循環において、鉄酸化菌は重大な役割を担っているのかもしれません。地球上のエネルギー・炭素循環における鉄酸化菌の役割の解明は、地球と生物との関わり合いの全貌を理解する上で欠くことのできない研究テーマと言えるでしょう。私は、最先端の分子生物学的手法および微生物学的手法を駆使して、海底の環境と鉄酸化菌との関わり合いを明らかにしようと試みています。

関連する発表論文
Kato et al. (2022) IJSEM [link]
Kato and Ohkuma (2021) Microbiol Spectr [link]
Kato et al. (2018) Microbiol Resour Announc [link]
Chiu, Kato et al. (2017) Front Microbiol [link]
Field, Kato et al. (2016) Geobiology [link]
Kato et al. (2015) Front Microbiol [link]
Kato et al. (2015) Environ Microbiol [link]
Kato et al. (2014) IJSEM [link]
Kato et al. (2013) Appl Environ Microbiol [link]
Kato et al. (2012) Front Microbiol [link]
Kato et al. (2012) Geomicrobiol J [link]
Kato et al. (2009a) Environ Microbiol [link]
Kato et al. (2009b) Environ Microbiol [link]


高温環境の微生物学

Black smoker chimney 6K
左:300ºC以上の熱水を噴く海底の温泉。 右:しんかい6500(JAMSTEC)

 100ºCを超えるような高温環境にも微生物は生息しています。このような微生物は熱いところが好きな菌なので「好熱菌」と呼ばれています。地球上の人間を含むすべての生物の先祖は好熱菌であったと考えられています。その生物がもつ遺伝子情報をもとに進化系統樹を作成すると、その微生物の進化の道筋がわかります。この系統樹の一番根元に位置する生物が、全生物の共通の祖先です。これまでにその存在が確認されている全生物の遺伝子情報をもとにして作成した進化系統樹では、その根元に位置する生物の多くは好熱菌であることがわかりました。つまり、好熱菌こそが全生物の祖先ではないか、と予想されます。私は、系統樹の根元に位置する生物をより多く獲得し、その性質を調べることで、全生物の祖先についてもっと詳しく知ることができると考えています。

hot spring Thermophilic archaea
左:箱根大涌谷温泉。 右:70ºCの温泉水から培養した好熱菌(右下のバーは10マイクロメートル)。

 高温の水が出る場所は、陸上の温泉や、3000mより深い深海の海底火山にも発見されています。ここには多種多様な好熱菌が生息しています。私は、そこにどんな種類の好熱菌が存在するのかを培養や遺伝子解析によって詳しく調べて、もっとも祖先に近い生物を獲得して、その特徴を決めようとしています。

関連する発表論文
Kato et al. (2022) IJSEM [link]
Kato et al. (2020) IJSEM [link]
Kato et al. (2020) Microbiol Resour Announc [link]
Kato et al. (2019) ISME J [link]
Kato et al. (2018) Microbes Environ [link]
Kato et al. (2013) Front Microbio [link]
Kato et al. (2013) Geochemical J [link]
Kato et al. (2011) FEMS Microbiol Lett [link]
Kato et al. (2010) Appl Environ Microbiol [link]
Kato and Yamagishi (2010) Viva Origino [link][PDF]


海底の微生物地理学

Ferromanganese crust
海底の岩石をべったり覆う鉄マンガン酸化物。

関連する発表論文
Usui et al. (2020) Sci. Rep. [link]
Kato et al. (2019) PLOS ONE [link]
Kato et al. (2018) Microbes Environ. [link]
Usui et al. (2017) Ore Geol. Rev. [link]
Nitahara, Kato et al. (2017) PLOS ONE 321: 121-129. [link]
Kato and Yamagishi (2014). In: Deep Sea: Biodiversity, Human Dimension and Ecological Significance [link]
Nitahara et al. (2011) FEMS Microbiol Lett 321: 121-129. [link]
Kato and Yamagishi (2011) In: Changing Diversity in Changing Environment InTech [link]